空の姫と海の王子


守りたい

いくら心で強く思っていても
それを可能とする力が無ければ
大切なものを守ることは出来ない

それを身を持って体験した筈だが
その時の記憶は今の陸には無い

しかし、記憶は無くしても
そんな事は分かっていた

分かってるからこそ全力で逃げる


「……そろそろ飽きたんだけど」

「っくそ!」


一瞬で目の前に移動した葵は
スッと手を伸ばした


逃げたいのに、逃げられない


葵と目があった瞬間から
体が固まってしまった様に動かない

動けない陸ではなく

葵の手は奈々に向かった


葵の口角が微かに上がる


「守りたいものを守れなかった時の絶望でも味わえば、もう春に近寄らないよね」

「やめろ!!」


陸が叫ぶと葵はその手を止めた

張り詰めるような緊張感に
陸の呼吸は荒くなっていた

そんな陸とは対照的に
葵は笑みを浮かべた


「交換条件なんて、どう?」

「交換条件……?」


掠れた陸の声に葵は頷いた


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