空の姫と海の王子
強く地面を蹴って奈々に手を伸ばした
油断していた葵の手から奈々を取り戻すと
陸はニヤリと笑って苛立つ葵を見た
「俺から奈々を奪うなんて百億年早い!」
「………うっざ。そんなに消されたいなら今すぐ消してやるよ!!」
葵の姿が消えた
そう思った瞬間に
目の前で強い光が弾けて
奈々を庇う様に抱き締めた
「……やっと来たね」
嬉しそうな葵の声には
先程までの怒りは無かった
何度がまばたきをして
やっと慣れてきた陸の目に映ったのは
「お願いだから、もう止めてよ……っ!」
自分と奈々を守る様にして
葵の拳を両手で受け止めた春の姿だった
その拳が余程重いものだったのか
葵が手を下げると春の体はふらついた
しかし、倒れるまいと足を踏ん張り
二人の前に立って両手を広げた
小さく、細いその体には
計り知れない程の力が宿っているのを
陸も葵も知っている
……なんで、こんな事に?
記憶が戻ったばかりで混乱する陸の前で
春は広げていた両手を祈る様に胸の前で組んだ
「葵……ちょっとだけ我慢してて」
「自分が何をしてるか分かってるの?」
「《星の消えた夜の悪夢》」
春の声が葵の耳に届いた瞬間
葵は静かに目を閉じてその場に倒れた
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