空の姫と海の王子


いつもよりも弱い声に
奈々はハッと顔を上げて
陸は黙って二人を見守る


「俺が記憶を思い出せたら、いいのにな」

「…………」

「そうすれば、お前が俺の為に怒ってるんだって、すぐに気付けたかもしれないのに」

「…………」

「悪い、ありがとな」


悲しげな笑みを浮かべた海斗

その胸ぐらを掴む手は離れて
奈々は立ち上がると手を差しのべた


「………奈々よ、私の名前は奈々。こっちの馬鹿は陸」

「ちょ、馬鹿じゃねぇよ!?」

「そうね、¨馬鹿¨の前に¨死ぬほど¨がつくわね」

「そうそう……じゃねぇよ!!」


(夫婦)漫才を始めた二人を見て
海斗は小さく笑った

さっきの冷たい笑みじゃない
心の底から溢れた感情が作り出した笑顔


「ああ、よろしくな」


奈々の手を取って立ち上がった

ほんの少しだけど
懐かしい感じがしたのは
気のせいなんかじゃない

心の扉がカタリ、カタリと
小さな音を立てて揺れたのに
海斗は気付かなかった


「───………いつ入ります?」

「…………」


その頃、扉の向こうで
中の様子を伺っていた優と由紀

今入って説明しても混乱するだろうし
なにより、久しぶりの再会を邪魔したくない


「………明日でいっか」

「そうですね」


由紀の言葉に優は笑って
二人は階段を降りていった


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