空の姫と海の王子


そのままひたすら
夜の町を歩き続けた

どの家も電気は消えている


「………おかしい、よね」


ふと、足を止めて目を瞑る

意識を集中させると
おかしい理由が分かった


人の気配が………ないんだ


風を纏って地面を強く蹴り
一気に町を見渡せる位置まで飛んで
一番最初に目に入ってきた光景

思わず言葉を失った春は
すぐに自分の目を疑った

何度まばたきしても
何度目を擦っても

目の前の光景が変わる事はなかった


「………嘘、だよね」


崩壊した建物

ショートした電線

ヒビ割れたコンクリート


住宅街から少し離れた場所には
戦いの爪痕が痛々しく残っていた


「…………」


ふわり、と地上に降りて
死んだ町の中を歩く小さな体は
悲しみと恐怖に震えていた

空から見た光景なんかとは
比べ物にならないくらい
地上で見る光景は残酷なものだった


瓦礫の下の服の切れ端

血の痕が消えてない地面

捨てられたぬいぐるみと

それに向かって伸びる


小さな、腕


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