空の姫と海の王子
深い溜め息をついた男は
乗っかったままの春を退かし
立ち上がると傘を拾い春に渡した
きょとん、とする春を見て
男は先程までの無表情ではなく
困ったように笑った
「突然攻撃してごめん。¨EARTH¨かと思ったからつい……ね」
「大丈夫ですっ、春もごめんな……くしゅっ!くしゅっ!!」
季節は冬で夜中の12時
雨の中での袖無しワンピース
春の格好を見て男は笑った
「真冬にその格好って。風邪引くよ?」
「がぜなんがびいでないもんっ!!」
「………それ、わざと?」
「ごめんなさい。ちゃんと喋れます」
何なんだこの子
もう雨は止んでいるのに
春は服に付いた泥を雨で洗っている
春の周りにだけ降る雨は
泥を洗い流すと止んだ
すると次は暖かい風が
春の服を乾かしていく
男の目が変わった
「………空」
男の小さな呟きは春にも届いた
「君、空の能力者なの?」
「そうだよ〜……よし、完璧!!」
服が乾いたのを確認すると
春は男に背を向けて歩き出す
が、その肩に手が乗せられた
「ただの能力者なら何もしないで帰そうと思ったけど、ただの能力者じゃなくて、¨空¨なら別」
「………?」
「俺と一緒に来てほしい」
男の真っ直ぐな瞳に曇りは無い
綺麗に澄んだ、普通の瞳に
春はすぐに首を横に振った
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