空の姫と海の王子


これが、空


そう感じると同時に反射的に左手を出して
倒れ込んできた春を咄嗟に支えた


「え?ちょっと、大丈夫?」


慌てて声を掛けるも返事はない

その代わりに聞こえる
規則正しい寝息に
男は深い溜め息をついた


…………寝てる


この状況で寝るか普通
仲間探しはどうしたんだ


どうしてこの死んだ町を救った


気を失う程に力を使ってまで
この町にさ迷っていた
死にきれない死者の心を
この女は笑顔で救った


「…………」


空が明るくなってきた

男は春を抱き上げると
花畑に背を向けて歩き出す


少しでも力を入れれば
折れてしまいそうなこの女は

今まで会ってきた人間の中で
誰よりも強く、誰よりも優しかった


「ありがとう」


きっと聞こえてないだろう春に
男は小さな声でお礼を言った


それが何に対するお礼なのかは
男にしか分からない事だった


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