空の姫と海の王子


「………能力者」


誰かが呟いた声が静かに響いた

周囲の目の色が動揺から
明らかな憎しみに変わると
今度は春が青ざめる番だった

突然の蓮の登場で緊張が解けたのは事実

自分のその甘さに後悔しても
時間が戻る事は無い


「……え、っと………」

「そうだ」


肩に手を置かれそのまま抱き寄せられる
顔を上げて葵を見ると哀れむような瞳が春を見た


「春は¨被能力者¨なんだ」


被能力者?


春にはその意味は分からないが
周りの者はその意味が分かったらしく
体に痛い程に突き刺さっていた憎しみが消えた


「……ごめんなさい」


多分、さっきと同じ声の人だ
よくわからないまま葵は首を横に振る


「俺が先に言わなかったのが悪い。今日はもう春を休ませるからまた今度、ちゃんと話すよ」


行こう

葵に言われて頷いた
まだまだ知らない事ばかりだ
春のいない間に色んな事が起きたんだ

食堂の出入口に着くと蓮と目があった


「お前も来るか?」

「………それ、興味ないからいい」

「そうか」


それだけ言って蓮は行ってしまう
残された春は呆然とその後ろ姿を見つめた


………¨それ¨?

それって春のこと?


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