空の姫と海の王子


「春?」


葵の手を払って蓮を追いかける


蓮がそんな事を言うはず無い
なんか変だ、何があったの?


追い付く、そう思った瞬間
春の眉間に冷たい物があたり
すぐに足を止めて顔を上げる


信じたくなかった


「何か用?」


自分の眉間にあてられた物を

蓮の感情の無い笑みを


「用が無いなら、」


消えて。


──パンッ


乾いた銃声

それが廊下に響く前に
春の頭は葵の手によって下げられた


思考回路が止まったまま
困惑に瞳を揺らす春の頭上で
葵と蓮の冷たい瞳がぶつかる

しかしそれも一瞬

蓮は鼻で笑うと銀の銃を懐にしまい
葵は蓮を睨み付けたまま黙っていた


「ペットはちゃんと躾ておいてもらわないと。僕の機嫌が悪かったら………殺しちゃうかもしれないよ」

「…………」

「じゃあね葵。また明日」


ひらひらと手を振る蓮の後ろ姿を
春は見ることができなかった


感情の消えた瞳は微かに濡れていた


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