空の姫と海の王子


何も言えなかった


なんでここにいるの?

みんながどこにいるか知ってる?


「──消えて」


頭の中を蓮の言葉がぐるぐると回る

蓮に何かがあったに違いない
じゃなきゃあんな酷い事、言わない

言うわけ、ない


頭はぼんやりとしたまま否定だけを続ける

そのせいもあったのだろう
春が自分の体が浮いていることに
気付くのには少し時間がかかった


「………っ、え?」


そこで思考がリセットされたせいか

自分の体が浮いているのは
葵が自分を抱き上げたからだと
気付くのにはそう時間はかからなかった


「葵っ、ちょ、降ろして?」

「…………」

「葵……?」


何も言わない葵を見上げるが
葵は真っ直ぐに前を見つめたまま
春に視線を向けようとはしない

そのままエレベーターに乗り
最下階のボタンを押すと求められる
幹部以上の者しか知らないパスワードを入力して
やっとエレベーターは動き出した


「…………」

「…………」


無言のまま何分経ったのだろう

音も立てずに止まったエレベーターを降り
葵は一直線の廊下を歩き出した


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