空の姫と海の王子


剥き出しのコンクリートの床は
葵が歩く度にコツコツと音が鳴り
沈黙のせいかやけに響いて聞こえた

正面にある一枚の扉が見えると
扉は自動的に内側へと開いた


自動ドア?


そう思った春だったが、予想は外れ
部屋の中から扉を開いていた
綺麗な女性を見て軽く会釈をした

日本人ではないのだろう
金色の髪は綺麗にまとめられ
その身には煌びやかなドレスを纏っていた

女性は二人が部屋に入ると扉を閉め
殺風景な部屋の中に置かれたソファーに
優雅に座ってまた微笑む


葵は春を女性の隣に降ろして
自分はその向かいにある小さな椅子に
腰掛け、そして春を真っ直ぐに見つめた


「泣いてもいいよ」


静かな声だった

意味が分からなかった
なんで泣くのだろう?
何に対して泣くのだろう?

春は笑った


「泣かないよ?悲しい事も辛い事も無いのに泣けないでしょー?」


「……そう。春はそうやって、自分に嘘をついてきたのか」

「……え?」






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