空の姫と海の王子
奈央は本気で走っていたが
春との距離が縮まるにつれて
そのスピードを落としていった
……遅くね?
普通の人間や能力者に比べたら
勿論、桁違いに速いのだが
奈央の知っている春はこんなもんじゃない
もはやあの速さは人間じゃないし
いや、人間じゃないのは確かなんだけどさ
人間と比べるのすら馬鹿らしくなるくらいのー……
そんなことを考えている内に
もう春のすぐ後ろまで距離を詰めた
その肩に手を付こうと手を伸ばした
絶対びっくりするんだろーな
知らない人のフリなんて嫌だけど
まあ、少しくらい早くバラしてもよくね?
うん、いいんじゃん?
絶対びっくりするじゃん!!
この後の事を考えて小さく笑った奈央だが
伸ばした手は春ではない別の誰かの手に掴まれていた
「君たちを春に近付ける訳には行かない」
奈央の灰色に変化した瞳が
葵の漆黒の瞳とぶつかった