空の姫と海の王子


葵は暫くして、春をゆっくりと
壊れ物のように大切そうに地面に横たえると
倒れる奈央の方を向いて溜め息をついた

出血は止まり、傷口も塞がっていて

呼吸も安定している

春が最後の力を振り絞って
致命傷の彼女を助けたのだ


「分かったよ、もう、嘘はやめよう」


胸元のネックレスを握り締めて
葵は深く息を吸って、目を瞑る

黒髪だったはずの髪は
根元から深い緑に変わってゆく


「次に会うときまでには、自分を大切にして生きてて欲しかったけど、大丈夫」


そう言って、ゆっくりと目を開いた


「俺が春を大切にするから」


漆黒だったはずの瞳は
輝く黄金の瞳に変わっていた

葵は春を抱きかかえると
そのまま反対方向へ歩きだした


甘い嘘は終わらせよう

嘘の方が良かったと思える程の
現在の残酷な現実を話そう



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