空の姫と海の王子


ひとりが当たり前だった

何故ならこの世界には
俺以外の存在はなかったから

表の世界を見るまでは
それを疑うことはなかった


表の世界を眺めていたら
常に何人かで行動する生物ばかり

何故表の世界にはたくさんの生物が
争いを始める程たくさんいるのに
この世界は俺ひとりなのか

何故?

ひとりを疑ってしまってから
俺は孤独を感じていた


「誰もいないのか?」


もしかしたら、と
森の中をひたすら歩いた


「ねえ、聞こえてる?」


動くかもしれない、と
花や木々に話しかけた


「……おい、そっちから俺が見えるか?」


見えてるかもしれない、と
湖越しに生物に話しかけた


答えは一度も返ってこなかったし
動く生物に会うこともなかった


森をさまようこともしなくなったし
無意味な言葉を紡ぐこともなくなった


俺はまた湖を覗き込んで
表の世界を見つめる事に集中した


胸の中にあった孤独感を
忘れようと思ったから


だから余計に、嬉しかったんだ


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