空の姫と海の王子
「──そうして生まれたのが九人の神と、空と海の力を継ぐ春達。扉を壊す者もいるかもしれないし、二人の力が尽きてしまうかもしれなかったから」
葵はそう言って笑った
自傷的な、悲しい笑顔
「その時に俺の声に反応して生まれたもう一つの存在が精霊。精霊達は荒れ果てた世界を少しずつ治してきた、だけどね」
治しても、また壊される
そしてまた治す、壊す
「三つの世界を完全に分けたのに今度はその小さな世界の中で争いを始めた。………そんな世界に俺は苛立ちを覚えた。だってそうだろ?何のためにカイとクウは、精霊達はこの世界を守った?俺はいつまで独りで世界を直せばいい?」
春は黙って聞いていた
………違う。
何も言えなかった
葵は間違った事は言っていない
「こんな世界、守る価値も、直す価値も無い。だから天界から堕とされた天使を使ってこの世界を壊してしまおうと思ったら、優しい精霊達は無力な人間に力を貸した。……そう」
葵は立ち上がった
春に背を向けて海を見つめる
灰色に曇った空と、ゴミで汚れた灰色の海を
「そしたら春と海斗、君達も人間に力を貸した。」
そんな世界を目の当たりにして
そっと、後ろを振り返って見えたものは
生物の存在しない偽物の、俺だけの裏の世界
「俺はまた、ひとりになっていた」