空の姫と海の王子
振り返った先に見えたのは
空間に浮かぶように出来た球体の陣
白く光り輝くそれの前に立つ葵は
いつの間にか、春を抱きかかえていて
サラと蓮は残像を残す程のスピードで
葵の前に瞬間移動した
「空間繋げてくれたのー?ありがとー。はい、春ちゃん渡して」
棒読みでお礼を言いながら
春に手を伸ばす蓮と
「私の春だ!さあ小僧、春は私が持ってやるからお前は術に集中しろ」
その手にピシャリと叩いて
春に手を伸ばすサラの口調は
どこまでも上から目線で
「ああ、ありがとう。……じゃあ、向こうに着いたら春の事を頼んであげる」
その言葉に首を傾げたサラと蓮
葵が陣に触れた瞬間、陣は膨れ上がり
葵と蓮とサラ、そして奈央を飲み込んだ
一番離れた奈央を飲み込んだ時点で
陣の巨大化は止まり、そして
一瞬で見えなくなる程小さくなり、弾けた
森の中に彼らの痕跡は残っておらず
初めからそこには誰も居なかったかのよう
風が葉の無い裸の木々の間を通り草を揺らす
森の中でも一際大きい木
誰に気付かれる事無く気配を完全に消し
その上に立っていた人影は
葵達がいた場所を暫く見つめ
また吹いた風と共に姿を消した