空の姫と海の王子


───蓮は春が気絶していた間
ここに来るまでの経緯を思い出しながら
春に気付かれないように溜め息をついた


細く白い指で輝くシルバーリングは
あまりにも細くなっていた

海斗の贈ったこのリングは特別なものだ

互いの気持ちが具現化したこのリングは
二人が愛し合っている間のみ存在する

どんな宝石より美しく優雅に
その存在を他者に主張する


しかし、今、

春の指のリングはとても細く
その存在を知らなければ見落とす程に
輝きも優美さも失っていた


二人の間の愛は消えようとしている


蓮が知る限り、海斗の気持ちは
常に春に多すぎる程に注がれていた

何があったのだろうか

能力を失い、人間となり
それ以上に春への愛を失った


「………春ちゃん」


絞り出したような小さな声に
微かに含まれた不安に春は首を傾げ

そして、笑った


「大丈夫だよー。春は海斗を信じてるから、大丈夫だよ」

「もし、真実を知っても?それが凄く残酷な事でも?」

「あんまり酷いと泣いちゃうかもしれない……だけどね、みんなが側にいてくれるから。一人じゃないから、頑張れるよ」


春の瞳は空色に変化していた

キラキラと輝くそれは
変わらない信念を感じさせた



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