空の姫と海の王子
「大丈夫だ」
後ろから聞こえた声に
リベルはすぐに振り返った
「葵様!それに春様も!」
振り返った先にいたのは
白いコートに身を包んだ葵と
葵に手を握られながらむくれている春
リベルは春を見た瞬間に
ホッと安堵の溜め息をついた後
すぐに葵に深々と頭を下げた
「申し訳ございません。私の不注意で春様を危険に晒してしまいました」
「まあ今回は俺が近くにいたから良かったけど、次は無いかもな」
そう言って葵は春の手を握る左手ではなく
右手をリベルに差し出して拳を広げた
白く光る小さな鳥籠の中には
鳥籠とは正反対の漆黒の蝶が捕らわれていて
それを見たリベルの表情が更に険しくなった
漆黒の蝶
その小さな蝶に仕組まれた
数多の呪いを感じ取ったリベルに
葵は静かな声で言った
「あちらはもう手段を選ばないようだ。俺達も覚悟を決めるしかない」
「覚悟なら既に。葵様に付いていくと決めた日から出来ております」
「それならいい。春、そういう事だから俺から離れるな」
「ごめんなさい……」
春は潤んだ瞳で葵を見上げ
消えそうな声でそう呟いた
葵は大きな溜め息をついて
目を瞑って目頭を押さえた
リベルの気持ちが激しく分かったからだ
「そんな目で見上げるのは止めろ。俺が悪いみたいじゃ……」
そう言って春に視線を戻すが、いない
さっきまでそこにいた筈の春がいない
葵とリベルが勢い良く振り返ると
そこには鳥を追いかける春の姿があった
葵とリベルは同時に大きな溜め息をついた