空の姫と海の王子


「どうしても行きたいわけ?」

「うん」

「………あっそ。それならしょうがないか」


ひかりは頭に付けていた黒いリボンに触れた

瞬間、白い光に包まれたリボンは形を変え
人の頭ほどの大きさの円形の鏡になった

ひかりはそれを両手で持つと
漆黒の瞳を開いて由紀に鏡を向けた


「《鳥籠の夢物語》」

「っ!」


由紀は瞬時にしゃがみ込んで鏡の前から消えるが
遅れた数本の髪とその後ろの机と椅子が
強く輝いた鏡の中に勢い良く吸い込まれていく


「分かったでしょ?早く戻ってくれないとあたしはこうするしかなくなるんだけど」

「それでも私は行く」

「なんで!?あんたはいつも冷静で戦いを望むような人じゃないじゃん!これから始まる戦いは今までとは訳が違う!さっきの波動を感じたでしょ、あれは間違いなく“空”の能力!EARTHもSANも総力戦で空を奪い合う!だからこそ上はあたしらを投入するタイミングを計ってるんだから勝手な行動なんかしたら……!」

「分かってる。だからこそ私は今行かなきゃいけない……!」


由紀の口調に力が入った

マスターは手を止め、優は眼鏡を上げ
玲と蘭は顔を見合わせて頷いた


ひかりは由紀から視線を逸らさない

由紀の真っ直ぐな瞳に宿る強い意志
それを感じ取ったひかりは溜め息をついた


「そっか……。あんたはもう見てるんだっけ」


ひかりの言葉に頷いた由紀を見て
鏡をリボンに戻して頭に付け直すと
横にずれてドアの前から退いた


「あたしは、知らないからね」

「ありがとう」


由紀はドアに手を掛けた





< 321 / 339 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop