空の姫と海の王子
ドアが開いて、閉まる
ドアに付けられた鈴がチリン、チリンと
静まった部屋に悲しげに鳴り響いた
壁に掛けられたコートを取る優と
既に準備万端でドア前に立つ玲と蘭と
目があったひかりはまた、溜め息をついた
「言ったでしょ、あたしは知らないから」
「「ありがとうひかりちゃん!」
「ありがとうございます」
二度、三度と鈴が鳴り響いて
ひかりは額に手を当てて溜め息をついた
「あーもう、幸せ逃げるじゃん。つか、絶対逃げた」
「ひかりさんは優しいですね」
マスターの言葉にひかりは足を止めずに
視線だけ、それも一瞬だけ向けた
その視線はとても冷たく
「そういうあんたはいつまでこうしてるつもり」
「何の事でしょうか」
「……あっそ」
短く一言、それだけ言って
ひかりは階段を上がっていった
誰もいなくなった店内で
コーヒーが落ちる音だけが静かに響く
マスターのシワの寄った目元は鋭く
もうすっかり冷めてしまった
カフェオレを見つめていた
「いつまでも……そう願う権利は私には無い」
そっと、目を閉じた