空の姫と海の王子
──パリンッ
それはとても小さな音だった
しかし、ひかりはカップを乱暴に置いて
勢い良く椅子から立ち上がった
ひかりの突然の行動に手を止めるマスター
しかし、海斗は気にすることなく
湯気の立つコーヒーを口に運んでいく
「っ!あの馬鹿共!!」
そう言い放ってひかりは階段を駆け上がっていく
海斗はカップを静かに置くと
ひかりとは対照的にゆっくりと立ち上がった
入口の横に掛けられた黒いコートには
”EARTH“の紋章が金色で刻まれている
そのコートを手に取り袖を通すと
マスターが不意に声をかけた
「どちらへ?」
「外。止めても聞かねえよ?」
「おや、そうですか。それなら、」
マスターの方から勢い良く
海斗めがけて何かが飛んできた
驚きつつとっさにそれを
両手で受け止めて確認すると
フードにフワフワのファーの付いた
暖かそうな黒い本革コートだった
そのコートは本当にただのコートで
どこにも何も模様は付いていなかった
「出掛けるのならそちらの方が都合がいいでしょう」
「ありがとう、マスター」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
海斗は口元にだけ笑みを浮かべ
ドアを開けて外へと飛び出していった
何故か鈴は鳴らず、ドアは静かに
パタリと音を立てて閉まった