空の姫と海の王子


階段を一段一段上るのも惜しくて
ひかりは始めの三段目に足を掛けると
常人離れした脚力で二階まで跳び
着地の反動を利用してドアを蹴り破った


中の光景を見た瞬間
既に発動させていたジュエルの鏡を
持つ手から力が抜けて鏡が落ちる

しかし床にぶつかる前に
鏡は意志を持つかのようにふわりと浮き
一際強い光を放った後

鏡のあった場所に現れたのは
派手な柄の入った黒い着物を着崩し
長い黒髪を細やかな細工の入った釵で留め
赤い唇が目をひく妖艶な美女


ひかりも、その美女も
割れた窓から視線を逸らさなかった

いや、正確には

割れた窓ガラスの外枠に
寄りかかる様にして立っている

ひとりの男の空色の瞳から


「……空」


ひかりの口から出たのはそれだけ
世界が追い続けている唯一無二の存在が
自分の前に立っていた

人の姿をしている事は聞いていたが
こんな高校生くらいの男だったとは


ひかりは右手を前に突きだして
無言で闇の塊を男に向けて発射する

その間に1秒もかかっていないが


「遅いよ」

「っ!?」


男はそれよりも速くひかりの後ろに移動し
ひかりの首筋に闇の刃をあてていた

当てられた闇から伝わるのは
深く深くそれでいて純粋な闇


実力が違い過ぎる

これが、空


「そう、僕が空。唯一無二の存在、君達が欲してやまない存在」

「……殺すなら、殺せ」

「殺す?やだなあ、僕は争い事が嫌いなんだ」


トン、とひかりの首筋を叩くと
ひかりの体から力が抜けてその場に崩れ落ちた


「雑魚は大人しく寝てればいいんだよ」


空の能力者、蓮はそう言って微笑んだ


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