空の姫と海の王子
「―――さて…と」
足音が聞こえなくのを確認すると
蓮は倒れたひかりの横に立つ
着物姿の女に視線を移した
「で?君は何者?人間じゃないみたいだけど」
「………妾は、雅。ひかりの心に住む闇の精霊」
「ふーん……は?精霊?精霊がなんで具現化してる訳?精霊は精霊界か、人の心の中にしか住めないんじゃないの?」
蓮は疑いの目で雅を上から下まで見ると
雅も少し困ったように肩をすくめた
どうやら雅にも分かっていないらしいが
その原因に考えを巡らせる時間は無いらしい
さっきまで晴れていた空が黒雲で覆われ
その間から光る雷と唸るような雷鳴
気を失ったままのひかりに触れようとした
蓮の手を遮り、雅がひかりを抱き抱えた
「こんな未熟な娘でも妾の主。勝手に触れないで頂きたい」
「あっそ。じゃあよろしく」
そっけなく返事をしてドアを開け
階段を下る間にも感じるのは
紛れもない春の能力の波動
葵と春が矢面に立つのは気にくわない
しかし、今回の春は譲らないだろう
仲間を取り戻すための大切な作戦なのだから
だからといって、蓮も素直に待つ訳ではない
僕にしかできないことがある
蓮が一階のドアを開けると
カウンターに座る奈央はこちらを見て
またマスターに視線を戻した
彼女にもまた
彼女にしかできないことがある