空の姫と海の王子
ーー青々と晴れ渡る空の下に広がるのは
いつもなら人で溢れているはずのこの国の首都
いや、人なら溢れているのだろう
目に映るところにはいないだけで
ドブネズミの様に隠れているのだ
無機質なビル、道路に止まる車
ネズミがどこに隠れていようと
彼等にとっては取るに足らないことだった
一年前、世界を救った事件は
この世界では震災とされていた
空と海とがこの世界にいた事実が
神々によって消された為だった
しかし、事実が消えようが
魔族やリールによって壊された街が
元に戻ることは当然の如く無かった
その復興の中心となったのは
国では無く、能力者協会だった
様々な能力者の協力の元
街はすぐに復興し、成長した
当時の能力者への偏見など
どこへいったものだろうか
虐げられていた能力者達の地位は
手のひらを返したように上昇した
そう、世間から見れば
能力者達は市民を救った英雄達だ
ならば、彼等はどうだろうか
英雄達に反逆する彼等は
なんの能力も持たない一般人は
能力者に守られて生きる彼等は
「ーーそう、まさにドブネズミ。」
壁一面がガラスになっている
このビルの最上階から眼下を見る男は
オールバックの黒い髪を撫でて笑った
黒いスーツを身に纏った男は一年前
最年少の31歳でこの地位まで上り詰めた
能力者協会の総取締役であり
その権力を一手に握る男の後ろには
かつての最高権力機関であった
元老院の姿があり、彼等もまた
男と同じように口元に笑みを浮かべる