空の姫と海の王子
……何故。
黒いコートを着て目の前に立つ少女は
自分達の守るべき存在である春と
全く同じ姿かたちをしているのだが
「おい!春の偽者!てめェ何のつもりだ!!」
「春……?ああ、空の名前のことかー。私は偽者じゃなくて影だよー。あと、マスターの命であなた達を殺しに来ましたー。」
「そうなんですかー…なんて言うかバァカ!!!ンだよ影って!」
「ざんねーん、機密事項なので言えませーん。とりあえず、大人しく殺されて下さいねー?」
足元に広がる立て看板の影から伸びた無数の槍
物質系、影の形状を変化させて操る能力
真昼で晴天の現状では厄介な能力だわ
地面を蹴って影から抜けるも
槍は這うようにして追い掛けてくる
「そっちだけに集中してると危ないよっ、と!」
「っ!」
投げられた数本の小さなナイフを
ギリギリで避ける、が
地面に出来たナイフの影が二人にに伸びる
避けきれねェ…!
体制を立て直す間もなく伸びる影に
痛みを覚悟して急所だけは外すように
身体を捻ったのと同時に影が向きを変える
心臓目掛けて伸びた鋭利な影
「…ったく…!」
刺さった。陸の心臓を貫通して
そのまま後ろの奈々の心臓を突き刺す
…はずだった影は全て消えていた
いや、影が消えたのでは無い
影は"飲み込まれた"のだ
「これだから…っ!手間かけさせやがって!」
先ほどまでの晴天は無い
あるのは薄暗く纏わりつく"闇"
ブーツのヒールが地面を叩く音と共に現れたのは
「無駄な体力使わせるとか!まじで信じらんない!!」
少女と同じ黒いコートを着た肩を上下させ
ゼェゼェと荒い呼吸のまま髪をかきあげた
酷く恐ろしい怒りの表情をしたひかりだった