空の姫と海の王子
──輝くほど白い城の屋上から
リールは楽園を見下ろしていた
見えるのは桜と屋敷だけ
無数に咲き乱れる花々は
どこまで続いているのか
それは誰にも分からない
しかし、リールの瞳は
花々も桜も屋敷も
何も映してはいなかった
頭を過ぎるのは記憶
自分が自分でなくなった時の記憶
『なぜあの子が……?』
サラの言っていた男の特徴は
記憶の中の少年と一致する
緑色の髪に金色の瞳
だがリールが少年と出会ったのは
もう何百年も前の話だ
その少年が生きているのなら
少なくとも人間ではない
『何者なの……でも、もういい。』
サラ達の会話は聞こえていた
空と海はいらない?
海はどうでもいいけど
春に危害を加えるのなら
『その前に私が奴を狩るよ。』
リールは立ち上がって
空間から鎌を引き抜くと
漆黒の羽根をバサリと広げ
夜空へと姿を消した
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