空の姫と海の王子
「そっか……春は男が怖いんだね」
よしよし。と宥めるように
髪を優しく撫でられるが
ハルの瞳から溢れる涙は止まらない
いや
カイト……
カイト……助けて……
心の中で必死にカイトの名前を呼ぶ
それだけでも、恐怖は
いくらかは収まっていくが
体の震えは止まらない
少年は悲しそうに目を伏せ
そのままハルをギュッと抱き締めた
「ハルは海を求めているのに、海はハルが苦しんでいる事も知らないんだよ。……ハルは海といて幸せなの?」
声を出したらもっと泣いてしまいそうで
ハルはコクコクと頭を縦に振った
少年はそんなハルを見て
また悲しそうな表情になると
そっとハルの首筋に指を這わせ、呟いた
「《過去の呪縛は闇に消える》」
すると、さっきまでのが嘘のように
ハルの体の震えは止まり、涙も引っ込んだ
キョトンとしたハルは
自分の両手を見つめた後
微笑む少年を見上げた
「……何で?怖くない……嫌だけど……」
「嫌は嫌なんだね。そんなに海が好きなの?」
「うん。好き……大好き」
「そう……」
少年はそっとハルを離すと
距離をとるように少し後退した
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