空の姫と海の王子
大切な人達を守れるなら
ハルの命なんてあげるよ
だって
ハルはみんなを守る為に
生きてるんだもん
少年はその言葉に眉をひそめた
「……ねえ、自分が何言ってるか分かってる?ハルって一応空の姫なんだよ。そんな簡単に殺されていい訳?」
「ハルが死ぬだけで、人間のみんなが助かるならいいよ。それに……ハルがいなくなっても、空は平気だから」
「ふーん……」
どこまで偽善者なんだ
確かにハルを消せば
バランスも少しは良くなる
俺の目的には近づく
だけど……
「ハルはそれでいいの?他の人間の為に生きて、死ぬの?ハルに他に生きる意味はないのか?」
「ハルの生きる意味……?」
「そう。ハルはこの先幸せになりたくないの?」
少年がハルの首に添えた手を
静かに降ろして微笑むと
ハルの瞳は戸惑ったように揺れた
無意識の内に触れていた
左手の薬指のリングが
やけに冷たく感じて、笑った
「ハルは……もう十分幸せだったから。これ以上幸せになったら罰が当たっちゃうくらいに」
大好きな人達に囲まれて
毎日、夜中まで笑いあって
幸せをくれたみんなが
ハルは本当に大好きなの
「みんなが幸せなら、ハルも幸せなんだっ。だから……みんなに手は出さないで」
「………」
よく分からない
自分が死ぬ事を選んでまで
他人の幸せを願うなんて
少年はハルの細い首を
両手でそっと掴んだ
小さく震えている首
力を込めようとしたが
それはできなかった
「ハルから離れろ」
冷たく、低い声と共に
少年の首に当てられた氷の刃
ハルは驚いて目を見開いた
「かい……と……?」
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