空の姫と海の王子


深い蒼の瞳を見つめ
ハルは小さな声で名前を呼んだ

しかしカイトはハルを見ない

少年は身動きをせずに
視線だけカイトに移した


「ふーん……君が¨海¨か。よくここに来れたね」

「うるせえ……離れろって言ってんだろ!!」

「俺に命令しないでくれる?立ってるのがやっとのくせに」


少年が愉快そうに言うと
カイトは不愉快そうに舌打ちをした

ハルはカイトの顔を見てハッとした

真っ青な顔に、吹き出た汗
剣を構えた腕が小さく痙攣している

体力馬鹿のカイトが
こんなにも疲れているのを
ハルは初めて見て思わず叫んだ


「カイトっ何で来たの!?」


そんなになってまで……
カイトだって空間術は苦手なのに


カイトは深い溜め息をつくと
少年を更に睨み付けた

少年は小さく微笑むと
ハルの首からゆっくり手を離した


「あー怖い怖い。まあいいや。俺は今日、機嫌がいいから見逃してあげるよ」

「お前は誰だ」

「俺?……いやだ、教えないね」


笑った少年に歩み寄ろうとしたが
カイトはふらりと体制を崩して
地面に片膝をついた

どうやら体力の限界らしい
呼吸が整っていなく、荒い

ハルは急いで駆け寄ると
疲れを癒やそうとカイトに触れ
淡い光を両手に集中させたが
ハルの視界もぐらりと歪んだ

前にも経験した感覚

この空間から追い出されるんだ
と思った次の瞬間には
ハルは意識を失っていた


「せめて……次に会う時までは自分の為に幸せに生きてよ」


少年の悲しそうな声が頭に響いた


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