空の姫と海の王子
◇離れた心、近付く影
──最悪だ
いつも通りに学校に行って
いつも通りに授業を受けて
いつも通りの帰り道
ただ一つだけ違ったのは
帰り道で猫を助けた事だけ
最悪だ
寄りにもよって
そんな所を見られるなんて
息をゴクリと飲むと
額を冷や汗が流れたのが分かった
どうしようかと
普段めったに使わない頭を
フルに使っても分からない
分かるのはただ一つ
「おいガキ。顔上げて目ェ見せな」
「さっさとしねぇとキレんぞコラァ!」
俺を囲む怖いお兄さん方
背中にはコンクリの塀
腕の中で俺を威嚇する猫
絶 対 絶 命
つか、お兄さん
もうキレてますよね!?
猫!威嚇する相手が違う!!
猫が爪を立てて痛い
お兄さん達の厳つい視線が痛い
こんな事になるなら
葵の言う通り千佳ちゃんに
さっさと告白するんだった!
何やってんだよ俺!!
木から降りれなくなった猫に
そっと手を差し伸べただけなのに
俺は木なんて登れないから
ちょっと手を伸ばしただけ
ほんの5mだけ……
「兄ちゃんさ……能力者だよな?」
向けられた銀の銃に
彫られたエンブレム
反能力者の革命派のもの
もう終わりだ
猫を離すと俺は諦めて目を閉じた
大通りの喧騒が遠くに聞こえ
静かな裏道がより静かに思えた
少し遅れて、銃声が響いた
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