空の姫と海の王子


しんと静まった部屋の中で
二人の足音だけが響いた


タンッ


ハルとカイトは足を止めて
目の前の巨大な扉を見上げた


空と海が生まれた時
共に生まれたこの扉は
三つの世界を繋いできた

今までも、そしてこれからも


二人が目を瞑ると声が聞こえてきた

二人にしか聞こえない
空と海の扉の声

一年前に聞いた時と同じ
柔らかな、優しい声


『大馬鹿者』


柔らかな、優しい声


それに似合わない言葉に
ハルとカイトは思わず目を開けかけるが
やっとのところで踏みとどまった

代わりに出てきたのは
なんとも間抜けな声だった


「「……はっ?」」

『聞こえませんでしたか?ならば何回でも言ってあげましょう。この大馬鹿者が』


一年前、二人が聞いたのは
王達との儀式的な会話

大臣から嫌と言うほど聞かされ
それを完璧に覚えるまで
寝かせてもらえなかった

……それはハルだけだが


今回もそれだと思っていた
というか、この扉がそれ以外に
言葉を話せるとは思ってもいなかった


困惑する二人の耳に
また声が響いてきた


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