花語り-ハナガタリ-
小さく簡素な家の庭に、毎年春を告げてくれる使者。
庭の隅に咲く薄いピンクを纏った白い花たちが、今年も春を届けてくれた。
このスモモの木を見ていると蘇ってくる懐かしい思い出が、閉じたまぶたの裏に広がる。
僕がまだが小さな子どもだった頃。
大好きだった幼なじみの女の子に、生まれて初めて贈り物をした日のことだ。
いつも使っている味気ないものではなく、綺麗な模様の入った折り紙を母親に買って貰った僕はそれで花を折った。
何個もの失敗作の山を作り上げた後、漸く出来上がった折り紙の花。
それを両手で受け取るなり見せた笑顔は、僕の胸を暖かくした。
しかし次の日。
僕が彼女の家の前で見たのは、クシャクシャに潰された折り紙の屑だった。
それを見た僕の中に、昨日の笑顔が蘇る。
初めて感じた胸の痛みと、溢れた涙の味は忘れられない。
慌てて駆け寄って来た彼女を突き放し家に飛び込んだ僕が、あれが飼い猫の仕業だったと聞かされたのはもう、日が沈みかけた夕方のことだった。