花語り-ハナガタリ-
急いで向かった家の前には、目を赤くした彼女。


その目が赤いのは夕焼けのせいじゃないってわかってる。


だから僕は頭を下げ、両手を差し出した。

次の瞬間。
そっと顔を上げた僕が見たのは、昨日と寸分違わぬ大好きな笑顔。

そして、その手には僕が差し出した庭のスモモが握られていた。



物思いに耽っていた僕を呼び戻す声がする。


大人になった今なら綺麗な本物の花だって買える。


けど、そこにあの笑顔がないのを僕は知っていた。



振り返るなり差し出したスモモを受け取った笑顔は、あの頃と寸分違わぬ……僕の大好きな笑顔のままだから。
< 11 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop