花語り-ハナガタリ-
同じアヤメという名前でも、必ずしも同じように幸せになるとは限らない。
そんなの百も承知だ。
だって、わたしはアヤメでもあいつは頼政じゃないから。
歌は歌でも、あいつのはロックだし。
消息だっていつだってわたしには掴めない。
そういえば、最近人気があるってライブハウスで噂を聞いた。
そんな風に乗って届いた良い便りは、天皇では無いけどどこかのお偉いさんの耳に入り、あいつが目指していた場所までぐっと近付いたって。
ライブハウスの隅で、わたしは胸に誓う。
どうか、あいつの行く道に幸せがありますように。
信じるものの幸福。
これくらいは、このアヤメにも分けてくれたっていいでしょ?
沢山のファンに紛れて見つめていたわたしに気付いたあいつは、にっと悪戯っこみたく笑う。
……嫌な予感。
先手を打って退場しようとしたわたしに、スピーカーから聞こえた爆音。
「アヤメ! 大好きだっ」
もちろん、このアヤメは花のアヤメではない。
多分あいつはアヤメの花も、歌を詠むことも知らないから。
あいつは頼政じゃなけど、それでもわたしの顔はアヤメよりも真っ赤に染められてしまった。
そして思った。
きっとアヤメさんも感じたんだろうな。
人目もはばからず愛を叫ぶ男が、堪らなく愛おしいって……。