学び人夏週間

山小屋へ戻ると、松野はもういつでも出られると言わんばかりに退屈そうに座っていた。

「松野ただいまー」

「お帰りなさい」

広げて干していた衣類やタオルもキレイになくなっており、パンパンのバッグはサックスのケースの横に行儀よく置かれている。

「折れた木の撤去作業、やってくれてたよ。道が開けたら市川先生が迎えに来るから待ってろって」

「そうですか」

松野が頷いたのを見届け、私は再び靴箱の前でレインコートの水気を切り、濡れた靴下を脱ぐ。

無垢材の床に水気で足跡をつけつつ、適当な場所に腰を下ろした。

この山小屋とも、もうすぐお別れだ。

心地よい木材の香りを深く吸い込むと、途端にここが名残惜しくなる。

私が座って一息ついたところで、松野は私に宣言した。

「私、戻ったらあの二人に謝ります。謝って、ショックだったことも話して、ちゃんと仲直りします」

「うん。それがいいね」

あの二人は、決して松野を嫌いになったわけじゃない。

だって今朝、松野の不在を一番に知らせてくれたのは彼女たちだった。

「あと、飯島くんとも話します」

「うん」

実ったばかりの二人の恋がどうなるかはわからない。

けれど、飯島の要求に対して松野がどう思っているか、きちんとわかってもらうべきだと思う。

「先生」

「ん?」

「ありがとうございました」

松野が向けた笑顔に、胸がきゅうっと締め付けられる。

なによ、こんなかわいい顔もできるんじゃない。

「別に、なにもしてないけどね」

照れを隠すと、ちょっぴりぶっきらぼうな言い方になってしまった。

そのあと松野がふふっと笑いを漏らしたから、きっと私の照れはバレていたのだろう。

それから暫くして、小屋の外扉が開く音がした。

バサバサと雨がっぱの擦れる音がする。

やっと道が開いて、俊輔が迎えに来てくれたようだ。

音を合図に、私と松野は立ち上がる。

「彩子!」

部屋に飛び込んできた俊輔は、雨がっぱを羽織ったままだ。

彼は私のもとへまっしぐらに向かってきて、勢いそのままに抱きついてきた。

「ちょっと! 俊輔!」

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