学び人夏週間
「俊輔が来てくれて嬉しかった」
「他の先生なんかに行かせねーよ。心変わりされても困るし」
「しないよ。私は俊輔が好きだもん」
「そうでないと困る」
前を歩くふたりが気づかないよう、一瞬だけ手を繋ぐ。
雨に濡れても温かい彼の手は、その一瞬で私の心を暖かくしてくれた。
一本道を下りて合宿場に戻ると、玄関で南先生が出迎えてくれた。
松野が覚悟を決めた渋い顔をしている。
多大な迷惑をかけたという自覚があるのは明白に見てとれた。
「松野」
南先生が呼び掛けると、松野は静かに深く頭を下げた。
「先生、ご迷惑おかけしました。心配かけてごめんなさい」
泣きそうな声が玄関ホールに響く。
私と俊輔、そして重森は、ふたりの様子を黙って見守っていた。
どうか松野を許してください。
私の思いが伝わったのか、松野が頭を上げてもう一度顔を会わせたとき、南先生は優しく微笑んだ。
「台風の中を逃げ出してみて、どうでしたか?」
「え?」
「松野の悩みは、解決しそうですか?」
「……はい。自分が何をすべきか、見つけることができました」
胸がじんと熱くなる。
その熱が全身を巡って、目頭まで熱くなる。
私まで泣いてしまいそうだ。
「さて、4人とも。まずは風呂に入って、体を温めてくださいね。風邪を引かれては困りますからね」
「はい」
私、この合宿に参加してよかった。
この先生に出会えてよかった。
今すぐには無理かもしれないけれど、私もこんな先生になりたい。
生徒が自ら学び答えを導きだしたことを喜べる、懐の深い教師になりたい。