学び人夏週間
ーーガラガラ……
大浴場に入ると、先に入っていた松野は湯船に浸かっていた。
「よっ」
「どうも」
肩より少し長いくらいの髪をアップしており、いつもと違う雰囲気。
私たちふたりの貸し切りで贅沢に使えるというのに、隅の方で膝を抱え小さくなって浸かっている。
まだ表情が暗い。
これから一度逃げた問題と再び対峙せねばならないのだから当然か。
私は松野に背を向ける位置のシャワー台に着き、シャンプーを始めた。
温かいシャワーは台風がもたらした雨よりも優しくて、温まった場所から強張っていた筋肉がほぐれてゆく。
体を洗い終えて湯船に浸かると、シャワーで少しほぐれた筋肉から、一気に疲れが流れ出ていくような錯覚がした。
異常事態に舞い上がって気づいていなかったけれど、私は疲れていたようだ。
「先生、スタイルいいんですね」
松野が小さく告げた言葉が、浴室内によく響いた。
褒められるのは嬉しい。
「努力してるからね、一応」
「努力?」
「そう。運動したり、食べるものに気をつけたり。最近はね、家でホットヨガやってるの。エアコンつけずに部屋を閉めきって、暑い中で汗だらだらかきながらのヨガ」
その暑さを想像したのか、松野は顔をひきつらせる。
「……そうですか。すごいですね」
「一度太っちゃうと、そうそう戻れないと思うんだよね。だから、予防を頑張るの」
軽くヨガっぽいポーズを取ってみる。
チャプっと音がして、私から波紋が広がる。
「その体だったら、市川先生に見せても恥ずかしくないの、わかります」
「え?」
「胸だって大きくてうらやましい。私、痩せてるわけでもないのに貧乳なんですよね」
松野は恥ずかしそうに胸部を押さえ、恨めしそうに睨み付ける。
「あのね、胸は大きさじゃないんだよ」
「え?」
「形よ、カタチ。巨乳より美乳がいいんだよ」
私は生徒に何を教えてるんだろう。
バカバカしくなって軽く笑いを漏らすと、それも浴室によく響いた。