学び人夏週間
それから私たちは、正しいブラジャーのつけ方やクーパー靭帯を緩ませないためのアレコレを語り、少しのぼせ気味で大浴場を出た。
初日はあんなにぶっきらぼうだった松野が、そして少し前からこの世の終わりのように暗い顔をしていた松野が、こんなにたくさん笑うようになったことが嬉しい。
こんな感覚、私が勤めている進学塾では味わったことがない。
私はまたひとつ大事なことを学んだような、心地いい充実感で満たされた。
肌を整えたり髪を乾かしたりしたあと、私たちは言われた通り食堂へ。
一足先に、俊輔と重森が並んで食事をとっていた。
といっても、もうほとんど食べ終えているが。
「おせーよ、二人とも」
重森が呆れたようにぼやく。
「ごめんごめん。待っててくれたんだ」
「ったく、風呂に何時間かけてんだ」
何時間って、1時間程度しか経ってないのに失礼なヤツめ。
湯上がりの松野にドキドキしているくせに生意気だ。
そんな重森に気づいた俊輔は、ニヤニヤしながら重森の脇腹を軽くつつく。
「あのな重森。女の風呂は長いんだ。そして風呂から上がったあとは、もっと長いんだ。覚えとけ」
「ふん。女ってマジ謎だわー」
松野と私は残しておいてもらったご飯を受け取り、彼らの向かいの席に座った。
久々のまともな食事に、心から手を合わせた。
「いただきます!」
しばらく談笑しながら食事を楽しんでいると、廊下の方がバタバタ騒がしくなった。
足音がみるみる近づいてきたと思ったら、開けっぱなしにされている扉の方から叫び声が。
「さやか!」
松野とケンカしていたふたりだった。
「ふたりとも!」
松野は立ち上がり、ふたりに駆け寄る。
「よかった! 無事でよかった……!」
「ごめんね、ふたりとも。本当にごめん」
「うちらもごめん。飯島はうちらがシバいといたよ」
「今頃反省してると思う」
泣いたり笑ったりしている彼女たちを見て、私と俊輔はホッと安心した顔を見合わせた。
もう心配なさそうだ。
かたや重森は、飯島の名を聞いたからか、思いきり不機嫌な顔をしている。
どうやら松野と飯島の間に何があったのか、薄々勘づいているようだ。