学び人夏週間
「重森、顔に出すぎ」
3人の邪魔をしないよう、小さな声で指摘する。
「嫌なヤツ思い出したからね」
重森は不快を露にした表情を改善する気はないらしい。
「まあまあ。そんなにやさぐれてると、せっかくの松野のイメージが台無しになるよ」
私の言葉に、重森の顔がいっそう険しくなる。
「は? なんだよイメージって」
「山小屋で話してたとき、はじめちゃんは最近男らしくなってきたし、ちょっとタイプだって言ってた」
「え、マジ?」
「ほんとほんと」
聞いた途端、重森はあからさまに表情を輝かせた。
だけどそんな自分に気づいたのか、すぐに表情を引き締め、顔を逸らす。
それから松野の方を愛しそうに眺めて、緩んだ口元を意識的にぎゅっと結ぶ。
「かわいいね」
「そうだな」
私と俊輔は、重森に聞かれないよう声に出さずに口の動きだけで会話して、ふふふと微笑み合った。
私たちが食堂で昼食をとったのは午後5時過ぎだったが、午後7時からの食事もちゃっかり頂いた。
案の定お腹はパンパンだ。
お腹をさすりながら国語部屋へ入ると、先に夕食を食べ終えた重森と松野が今日の課題をまじめにやっていた。
重森はなんともないようだが、松野は私と一緒でちょっと苦しそうだ。
「お、やってるねー」
軽いノリで声を掛けると、ふたりの視線が同時にこちらを向く。
「南先生に、これだけはちゃんとやるよう言われたので」
松野がうんざりした顔でぼやく。
長机にのっている課題を見ると、まだまだ終わらなさそうだ。
当然だ。だって朝から夕方までサボっていたのだから。