学び人夏週間
田中先生が重森と飯島のもとへ向かう。
彼が近づくごとに生徒たちは静になり、次第に食堂は静かになった。
重森と飯島も、ピタリと動きを止める。
「お前ら、外でやれ」
田中先生の腹の底に響くような低い声。
こんな声を出せるのかと、心の中だけで驚く。
重森が飯島から手を放した。
もて余した苛立ちをぶつけるように食堂のドアを開け、落とした食器もそのままに、食堂を出ていく。
飯島も面倒くさそうな顔をして出ていった。
その間、私は突っ立ったまま間抜けな顔をして呆けていたと思う。
本当にふたりをケンカさせていいのだろうか。
普通、こういうのって講師側が率先して止めるものではないのか。
「あーあ……」
田中先生がしゃがみこみ、落ちた食器を片付ける。
すべてプラスチックのため、割れてはいないようだ。
周囲の生徒も彼を手伝い始め、静まり返っていた食堂は思い出したように昼休みらしさを取り戻した。
「あの、いいんですか?」
南先生に尋ねると、南先生は申し訳なさそうに笑った。
「心配かけてすみません。たまにあるんですよ。うちでは気が済むまでやらせることにしてるんです。大ケガはしない程度にね」
南先生がケンカの現場の方へ視線を移した。
つられて目を向けると、田中先生が教室を出ていくのが見える。
ヒートアップしすぎた時は彼が止めるのだろう。
「そうですか」
ケンカの原因はおそらく松野だ。
しかしその本人は、何も気づいていない様子で、周囲と一緒になって「どうしたんだろうね?」と首をかしげていた。