学び人夏週間
二人は課題を再開。
私も自分の仕事に取りかかった。
他のクラスから届いた国語の長い記述問題や作文の採点、そして提出された読書感想文の添削。
作業している間に他の教室から何人か質問やアドバイスを受けに来た。
来たのは松野や重森と違って素直な性格の子ばかりだった。
やっぱりこの二人が特別に可愛くない性格なだけなのだと安心する。
昼食、昼休み、午後の勉強タイム。
文句を垂れてごねたり嫌味を言われた昨日とは違い、すべてがスムーズに進んでゆく。
効率主義の松野はさっさと課題を片付けて学校の宿題に力を入れ、集中力のない重森は松野の様子をチラチラ気にしながら必死に課題を消化していた。
昨日からずっと一緒にいて慣れたし情が湧いたし、彼らも私を先生だと認めてくれたみたいだから、ちょっとだけ可愛く見えてきた……かも。
午後6時。
今日もこの時間でいったん終了になる。
彼らはこれから風呂に入り、その後、夕食である。
「7時までに食堂ね」
「はーい」
さっさと机の上を片付け、迎えに来た友達と合流していった松野。
直後、彼女の友人のキャピキャピした笑い声が廊下から聞こえた。
若いっていいなぁ……。
私も5年前はあんな感じだったのだろうか。
重森は昨日と違い、スッキリした表情だ。
「今日はお風呂恥ずかしがらないの?」
半笑いでからかうと、
「うるせーな、もう大丈夫だし」
とムキになり、私から逃げるように部屋を出て行ってしまった。
昨日まであんな顔してたくせに。
松野は相変わらず無愛想で、重森は生意気で口が悪い。
だけど、だいぶ馴染めてきた。
進歩であると信じたい。
部屋の床を簡単に掃除して明かりを消し、部屋のドアを閉める。
生徒がいなくなって静かになった廊下を、他の教室を覗きながら歩く。
英語部屋には誰もおらず、明かりも消えていた。
俊輔の担当している社会部屋にはまだ明かりがついている。
まだ彼が残っているのだろう。
話でもしようと部屋のドアを開けるつもりで中を覗いた、その時。
部屋の中に俊輔だけでなく、小谷先生もいることに気づいた。
二人は向かい合っており、真剣な顔をしている。
入ってはいけない雰囲気を感じ取った私は、中の様子をうかがいつつ、一歩後ずさりした。