学び人夏週間
二人とも私が覗いていることには気づいていない様子。
小さな声で話しているため、何を話しているのかは聞こえない。
あの深刻そうな表情、仕事の話をしてるんだよね?
だったらきっと邪魔しないほうがいい。
部屋を離れようとした、その時。
小谷先生が正面から飛び込むように俊輔に抱きついた。
「え……?」
勢い余って二人の体の向きが変わる。
ガタッと机や椅子に体がぶつかる音がした。
小柄な小谷先生の体は俊輔の後姿に隠れ、背中に回された腕しか見えない。
なに、これ……?
私はどうしていいかわからず、急いでその場から離れた。
駆け足で、でも足音がしないように。
廊下の端にある掃除道具箱を開け、使っていたほうきと塵取りを押し込み扉を閉める。
心臓がバクバク鳴り、手もブルブル震えている。
なにあれ。なにあれなにあれ。
小谷先生って、俊輔のこと好きなの?
好きじゃなきゃ、抱きついたりしないよね。
だらしないし頼りないから、モテるなんて思ってもみなかった。
彼を好いているのは、そして彼のよさを理解しているのは私だけだと思っていた。
そんなわけなかったんだ。
逃げたりせずに事の顛末を見守っておけばよかった。
小谷先生に「私の彼なのでやめてください」って、ちゃんと伝えればよかった。
どうして逃げちゃったんだろう。
私は意気地なしだ。
塾側には私と俊輔が付き合ってるなんて言ってない。
大学の同期だとしか伝えていない。
だって、ふつうそんなプライベートなこと、報告しておく必要なんてないのだから。
ていうか、俊輔は彼女をどう思っているの?
もしかして二股かけてるとか?
まさか……ね。