ハート

小さな始まり

それからというもの、私は彼のことを完全に忘れようとした。

考えれば、心も体も苦しくなる。

大学もバイトも休む訳にはいかない。

彼には仕事があるように、私にも今やらなくてはならないことがある。

それらに支障を出さないためにも、彼のことは心の奥底に閉まっておくのが一番だった。






その日も、大学が終わるとすぐにバイト先へ向かった。整骨院へと向かう道のりを歩いていると、急にお腹がグーグー鳴りだした。


「そいえば今日お昼食べてないや~。なんか食べなきゃなぁ」



時間があまりないので、近くにあったコンビニに急いで飛び込み、好きなお菓子をガバガバ買った。





お菓子が大量に入った袋を持って、満足げに店を出る。

何から食べようかな~。 やっぱ最近お気に入りのプリッツトマト味かな~。

などと考えながら歩いていると、ふと どこからか視線を感じた。




視線の方向を見ると、どこかで見覚えのある顔がじっとこちらを見ている…


しかし、暗くてハッキリ見えなかった。

時間もないので私はさほど気にも止めず、整骨院へと急いだ。




5分前に着き、慌ててナース服に着替え、受付に座る。

急いだ甲斐もなく、今日もガラガラだった。






しばらくして大野さんが来た。

今日も黒いジャケットに黒いジーパンを纏い、いつも通り決まっている。


私はカルテをとりだし、ノートに記入をした。

眠くて思わず視界がぼやける。



あぁ~早くバイト終わらないかなぁ。
早く帰って寝たいなぁ…

睡眠は、最近の私の唯一の楽しみだった。

夢は私に、色んな世界を教えてくれる。






しばらくして院長が大野さんを診察室に呼び、 私も眠気と格闘しながら残りの仕事にかかった。
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