ハート
それにしても、その日の病院の空き具合といったら、心配になるほどだった。

今日一日で来た患者さんはまだ20人もいないし、私が来てからは大野さんしか来ていない。

こんなんで、経営破綻したりしないのだろうか…

いきなりクビにされたりしたら笑えない…



私はやることもなく、ひたすら治療器具を磨いていた。


いつのまに治療が終わったのか、気がつくと大野さんが受付の前に立っていて、慌てて診察券を差しだす。

「お大事にどうぞ」

いつもの決まり台詞。


ところが…



「あの…さっき、そこのコンビニの前にいませんでした?」

いきなりの発言にビックリして、初め何を言っているのかよくわからなかった。




「あ……はい!いました、いました!」

少し考えて、やっと言葉を発すと、


「やっぱり。
さっきそこで見かけたのに、俺が来たらもう受付に座ってたんで、早っ!て思いましたよ」

と、笑いながらに言われた。


そっか…
あの時こっちを見ていたのは大野さんだったんだ。

納得したら、なんだか少し嬉しくなった。


「そうだったんですか。私もどこかで見たことあるなぁ…とは思ったんですが、暗くてよく見えなくって」



気がつけば、二人で笑いながら話していた。

大した話題じゃないのに、何故かとても楽しかった。



こんなふうに、些細なことでも 声をかけてくれたことが嬉しかった。






ほんの些細なことだけれど
思えば、これが私と彼が近づく第一歩になったのに間違いはない。

それからというもの、私の中で 大野さんは 他の患者さんよりも少しだけ親近感を感じる人となっていた。
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