ハート
整骨院にくる患者さんにも色々な人がいる。


私は、カルテを見ながらその人の名前や年齢、職業や症状などを覚えていくのが割と好きだった。



お母さんに連れられてくる小さな子供や、部活帰りの中高生、私と同じ大学生、会社帰りのサラリーマンなど、年齢も性別も職業も皆バラバラだ。

世間知らずだった私には、こんなふうに色々な人たちと関わること事態初めての経験だった。
アルバイトを初めてからというもの、「初めて 」の連続だ。

これが私がバイトを始めた動機でもある、いわゆる社会勉強というものなのだろう。







それにしても、その日の整骨院はいつにもましてガラガラだった。

私が来てからの患者さんは一人だけで、 腰を痛めている常連のおばさんは、いつもの簡単な診察だけして帰ってしまった。


「暇ですね~」


することもなく、包帯の整理をしている院長に声をかけてみた。

院長は苦笑いしながら、
「いつものことだよ」

なんて、呑気に言っている。


「このまま患者さん、一人も来なかったらどうしよ~」

冗談めかして言って見た。


院長は相変わらず呑気に、今度は湿布を袋詰めしている。

「大丈夫大丈夫。少なくとも一人は必ず来るから。
君が来る前に電話があって、交通事故での患者さんがこれからくるって。」



とりあえず、一人も患者が来ないという心配はなさそうだ。

別に暇なのは嫌いじゃないけれど、いつまでも院長と二人っきりだといい加減息が詰まる。




しばらくして院長は奥の控え室に煙草を吸いに行っき、 診察室はやっと私一人きりになった。



思わず大きな欠伸がでる。

ついでに両手を大きく伸ばして背伸びもしてみた。


「ん~、ねむ~」



その時、


ドアの開く鈴の音とともに一人の男の人が入ってきた。

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