JDKハルヤ 〜性同一性障害のモデル〜
エピローグ
エピローグ
春でもない、夏でもない、だけど雨とともに訪れる季節の移り変わりが目に見えて楽しい季節。
この日のために1年以上前から彼は予約していてくれた。
アタシの「オンナ」の子になるための手順が終わって安定する22歳の6月。
手術も戸籍の変更も終わった。
アタシはやっと、「オンナ」の子になれたのに感じるのは不安ばかり。
私はコドモを産めない。
大好きな彼とのコドモを授かることができない。
そのことを彼に話すと、
「心配するなよ。いつか、その夢はかなうから」
とぎゅっと抱きしめてくれる。
その優しさが、後悔に変わってしまわないかアタシは不安なんだ。
そんなことを考えながらアタシは、式場の控え室でヘアメイクをしてもらっていた。
メイクはいつもの通りリエにお願いした。
深い群青色のドレスを着たリエはいつも以上にかわいかった。
「ウエディングメイクは初めてだから楽しい」
「私は撮影で何回かあるけど、予定もないのに結婚式はしたくなるよね」
ヘアはマシュリさんにお願いした。
今日は濃い緑色の光沢のあるドレスで、撮影で会う時のラフな姿とは全く違った。
「はい。できあがり」
信じられなかった。
「キレイ―――」
ピンクに彩られたキラキラとしたメイクに、普段ではできない髪の毛のアレンジでまとめられていた。
「アタシじゃないみたい」
どれだけ着飾ってもどこかに自分ではないという感覚があった。
けれどもそれは、彼に愛されていると感じるたびに少しずつ消えていく。
ただ、全て消え去ることはない。
「ちょっといいかしら?」
ノックとともにドアからアヤカが入ってきた。
「あ、お姉さん? どうぞ」
マシュリさんは部屋を出ていく。
「それじゃ、アヤカちゃん」
「リエちゃんはここにいて」
「え?」
「いいの。ここにいて」
出ていこうとしていたリエはゆっくりとドアを閉めた。
「結局、二人とも今日は来るつもりないみたいよ」
唯一の親族の参列者であるアヤカが少しイラ立ちを見せながら話し始めた。
「何かないのって言ったら、お母さんは、体に気をつけなさい、だって。父親からは特にないもないわ。ほんとうに親なのかしらね」
一流企業に就職したアヤカは大学の時みたいにまだ合コンを繰り返している。
彼女も、変わらない。
「―――私は今でもハルヤが女になっただなんて思っていない。戸籍を抜いたって変えたって、ハルヤはハルヤ。私の大好きな弟のハルヤなんだよ」
アタシを大好きでいてくれる。
「………ありがとう。アヤカちゃん」
アタシはほんとうに泣き虫だ。
何げない言葉でもうれしくて涙が出てくる。
「私が言いたいのはそれだけ。それじゃあ、幸せになりなさいよ」
と早口で言い終えるとアヤカはすぐに出ていってしまった。
春でもない、夏でもない、だけど雨とともに訪れる季節の移り変わりが目に見えて楽しい季節。
この日のために1年以上前から彼は予約していてくれた。
アタシの「オンナ」の子になるための手順が終わって安定する22歳の6月。
手術も戸籍の変更も終わった。
アタシはやっと、「オンナ」の子になれたのに感じるのは不安ばかり。
私はコドモを産めない。
大好きな彼とのコドモを授かることができない。
そのことを彼に話すと、
「心配するなよ。いつか、その夢はかなうから」
とぎゅっと抱きしめてくれる。
その優しさが、後悔に変わってしまわないかアタシは不安なんだ。
そんなことを考えながらアタシは、式場の控え室でヘアメイクをしてもらっていた。
メイクはいつもの通りリエにお願いした。
深い群青色のドレスを着たリエはいつも以上にかわいかった。
「ウエディングメイクは初めてだから楽しい」
「私は撮影で何回かあるけど、予定もないのに結婚式はしたくなるよね」
ヘアはマシュリさんにお願いした。
今日は濃い緑色の光沢のあるドレスで、撮影で会う時のラフな姿とは全く違った。
「はい。できあがり」
信じられなかった。
「キレイ―――」
ピンクに彩られたキラキラとしたメイクに、普段ではできない髪の毛のアレンジでまとめられていた。
「アタシじゃないみたい」
どれだけ着飾ってもどこかに自分ではないという感覚があった。
けれどもそれは、彼に愛されていると感じるたびに少しずつ消えていく。
ただ、全て消え去ることはない。
「ちょっといいかしら?」
ノックとともにドアからアヤカが入ってきた。
「あ、お姉さん? どうぞ」
マシュリさんは部屋を出ていく。
「それじゃ、アヤカちゃん」
「リエちゃんはここにいて」
「え?」
「いいの。ここにいて」
出ていこうとしていたリエはゆっくりとドアを閉めた。
「結局、二人とも今日は来るつもりないみたいよ」
唯一の親族の参列者であるアヤカが少しイラ立ちを見せながら話し始めた。
「何かないのって言ったら、お母さんは、体に気をつけなさい、だって。父親からは特にないもないわ。ほんとうに親なのかしらね」
一流企業に就職したアヤカは大学の時みたいにまだ合コンを繰り返している。
彼女も、変わらない。
「―――私は今でもハルヤが女になっただなんて思っていない。戸籍を抜いたって変えたって、ハルヤはハルヤ。私の大好きな弟のハルヤなんだよ」
アタシを大好きでいてくれる。
「………ありがとう。アヤカちゃん」
アタシはほんとうに泣き虫だ。
何げない言葉でもうれしくて涙が出てくる。
「私が言いたいのはそれだけ。それじゃあ、幸せになりなさいよ」
と早口で言い終えるとアヤカはすぐに出ていってしまった。