JDKハルヤ 〜性同一性障害のモデル〜
握られたままの右手と、





ケータイから伝わる温もりを感じる左手。





アタシの動きを止めてしまう彼の真っ直ぐな言葉と瞳。





「―――ありがとう」





それから逃げてしまいたくて、目をそらした。





「それと、連絡先教えてくれない?」





「え?」





「今度食事にでも行かない?」





不意の言葉でアタシは彼の目を見つめた。





「好きな物は何?」





彼はケータイを出して尋ねた。





「………魚料理とか好き」





「わかった。美味しいところ探しておくよ」





重ねたケータイがデータを交換し合う。





「じゃあ、連絡するよ。また今度」





彼はそう言い残して去っていった。





今度なんてあるわけがない。





アタシは今までに何度もこんな経験をしてきた。





< 82 / 364 >

この作品をシェア

pagetop