公爵夫人の子供
幼少期の想い出はセピアに彩られ、思い返すと芳醇に春先足で踏む房葡萄のむせかえりに似た感慨を感じます。

ハッチとわたしは同い年で、幼く、七年前の夕日を背に無邪気に話し合ってばかりいました。

塩商人の息子で村一番の稼ぎ頭の父親を持つハッチの、親から伝え聞く滑稽話は、実話なのか幻なのかわからず、ただただお腹をおさえるのがやっとなのでした。

その頃なのでしょうか、病気がちな弟の看護につかれた母とわたしの慰めものとして、わたしを詩と物語に駆り立てる原体験を形作ったのは。

わたしが語り部になりたいと想ったのはその頃でした。
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