宙(そら)にとけて、しまう
「不幸に慣れてるってこと?」
「あー、なんか、そうじゃなくて」

言葉に詰まった時、ヒデミは本当に頭を掻きむしる。
ヒデミの柔らかそうな髪の毛が一本抜けて、
海の方へ飛ばされながら落ちていく。

「なんていうかさ、テレビの、再現ビデオっぽい」
「えー、大げさっていうか、演じてるって感じ?」
「ちがうちがう、わざと大げさに言うとか、
そういうんじゃなくてさ、
それもそれでやなんだけどさ」
「わかんないなー」

ヒデミはまた頭を掻きむしると、
急にストンと砂の上に腰を下ろした。
熱い、熱い、と騒ぎながらも立ち上がろうとはしない。
「この時間だよ、砂は熱いに決まってるって」
日は傾いて来たがまだ昼の明るさだ。
わたしは立ったまま、履いていたサンダルの踵で、
足元の砂をふざけてヒデミの方に押しやった。

「この人、何度もさ、頭の中で不幸な話を自分にしてきた」
「えっ?」
「いつか誰かに伝えようって、思ったか知らないけど、
言葉を選んで、自分に話してきた」
「うん」
「そういう感じが、なんかさー
たまらないっていうか」

「わかるかも」
まだ頭の中で納得していなかったのに、
わたしはついそう言っていた。



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