宙(そら)にとけて、しまう

天<2>

彼女は歩いてくる
私には気づかない
いつも、どの子の時も決まってそう

彼女はこの瞬間を誰かに見られていると知ったら
足元の地面が抜けるような不安を感じるだろう
ひとりきりでいる時にこそ
世界が自分にだけ
恐ろしい秘密を明かすのではないかと怯えている
でも、その恐怖を誰にも知られたくない
そういう子だから

彼女は自分を特別だとは思ってない
注がれた容器の形に自由におさまる
水のような存在だと思っている
それなのに
この世界と自分の隙間を
神経質に嗅ぎ付ける

嗅ぎ付けておきながら
知らないふりをしたがってる

そうね
あなたは別に特別じゃない
ただ、さらさらの、透明な、
水にはなれないだけ

熱を帯びて、
いくつもの色に光る、
溶岩みたいなものなのよ

この世界が
あなたが流し込まれた型
その隙間はあって当然のもの
けれど
いつかそれはあなたを壊すかもしれないし
世界を壊すかもしれない

彼女はまだ私には気づかない
彼女はまだ、
自由を覚えている

でももう、
夢の中でしか、
時間を超えることができない
時々こちらに迷い込む以外は
まるで小さな大人のように
体をたわめて生きている

もうすぐ気づく
彼女がひとつの決断をするまで
あともうすぐ
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