宙(そら)にとけて、しまう

地<3>

「おーい」
誰かが呼んでる。
「おーい、ヒロカ、おーい」
マナミの声だ。
せっかく眠ってるのに。
まだ起きる時間じゃないはず。
だいたい今は夏休みだし。

あれ?
今は本当に夏休みだったっけ。
今は夜?朝?
昨日寝たのは何時くらいだった?
それともわたしは、昼寝をしているんだっけ?

「おーい、生きてる?」
「うるさいよお」
「あ、しゃべった」

急に視界に色がついた気がした。
わたしはマナミのベッドに寝ていて、
マナミがそばで見ていた。
いつもの自分の部屋の景色だけれど、
二段ベッドの上と下では、やっぱりちょっと見え方がちがった。

「もう、覚えてるの、昼間のこと」
「えーと、何だっけ。ていうか、今何時?」
「10時だよ、夜の。昼間、海の近くに座ってたら急に気持悪くなったって」
「うん」
「それで、ヒデミちゃんが送ってきてくれて」
「そっか、そうだった」
「わき目もふらずにここまできて寝ちゃってさ」
「それは覚えてないや」

マナミは随分心配してくれているようだった。
そう、ヒデミと海で話しているうちに、めまいがして、何だかとても気分が悪くなってきたのだった。
ごめん、帰る。そう言って自分で家まで帰って来た。途中まで行くよと言っていたヒデミが、何だかんだで家までついて来てくれたのだから、相当具合が悪そうに見えたんだろう。

「オノ先生にも来てもらったんだよ。別に心配ないって言われたけど」
「え、そうだったんだ」

オノ先生というのは、近所の病院のお医者さんのことだ。

「で、なんで今起こしたの?」
「もうー、何だその言い方。ヒロカがさ、なんか急に寝言言い出してうなされてるっていうか、何か変だったからさ」
「そうなの?寝言で何言ってた」
「それが全然わかんないの。どっか外国の言葉か呪文みたいでキモチ悪かったよ」
「ひどいなあ」
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